火の顔
会場内に響く秒針の音。
それだけであの不思議な世界に入り込んだ。
僕は、自分が生まれた時のことを覚えている。
最初にこの言葉を聞いた時は、クルトは小さい頃の記憶がハッキリ分かる子なんだと捉えてしまった。
ねぇ、誰か怪我してる。トイレが血だらけなんだけど。
日常的な会話であるが、私は狂気的な何かを感じた。
放火のシーン(語り)
今起こっている状況を淡々と話すシーン。言葉で事細かに説明されるからこそ恐怖が更に湧き立てられた。「痛みは後から来た。」ベッドに仰向けで、叫びもがき苦しむクルトを見た。とても息苦しかった。
オッペンハイマーって知ってる?原子爆弾を作った人だよ。
何気ない親子の会話かもしれないが、恐怖を感じた。ママが「ふ~ん。」と聞き流したからであろう。そこで、聞き流されず、話を掘られていれば、単なる日常会話にすぎないであろう。そこを聞き流すことにより、何か引っかかりが生まれた気がする。
口を閉じろ。耳を塞げ。
爆弾作りに重要なのが、しっかりと密閉すること。クルトの人格が爆弾にぴったりハマっていた。
ヘラクレイトス
私たちもこの世界の1部であるため、「自然に従って生きよ。」と説き、自分自身や生き方に関して深く考察した人物。クルトの生き方が、もはや自由な生き方なのではないかと感じた。
衣類工場への放火
放火シーンで流れている音楽が明るい曲調で、クルトとオルガが放火を楽しんでいるように感じた。飛び回りながら、見つめ合いながら叫び、火炎瓶を投げる。狂愛さえも感じた。震えた。
股の間から俺はずっと母さんを見つめていた。ニョロニョロと下に落ちるように出口を抜けた。母さんは急に4トンも軽くなって、それから強い力で上の方へ攫われた。母さんにはそれが43秒続くと分かっていた。
43秒。原子爆弾が投下されてから、空中で核爆発を起こすまでの時間だ。あくまでも私の見解に過ぎないが、母=爆撃機クルト=原子爆弾 なのではないか。この思考になった途端、今までバラバラだったピースが次々と当てはまっていくように感じた。
「火の顔」には正解はない。しかし、皆それぞれが考えて出た見解は全て正解だ。正解を知れたらどれだけ楽か、何度も何度も苦しんだ。だが、正解を知ってしまったら考えることをやめてしまう気がする。この作品に出会った以上、私は私なりに「火の顔」についてもっと考えていきたい。この作品に出会えて良かった。
深作組最高。